枯れる事を知らない夢
放課後、美華ちゃんのクラスの担任の先生に美華ちゃんのことを聞いてみた。

「彼女は入学当時から不気味でね」

「そうですか」

「去年彼女を庇っていた副担の先生が彼女を庇っていることを生徒から叩かれて精神的に参って辞めて行ったよ」

「その先生の名前は?」

「えーと…田中先生だったな」

「そうですか」

「貴方もまだ若いんだから生徒に叩かれて辞めていくなんてやめてくださいよ。みんなのように彼女はいないも同然の扱いをするといい」

なんてクズな人間なのだろうか。何故そんな考えしか正しいとしか思えないのだろうか。俺は屋上に行きタバコに火をつける。確かに美華ちゃんは昔と変わって愛らしい雰囲気はなくなって世間で言う地味なことになってしまったかもしれないけども美華ちゃんは美華ちゃんだ。昔の彼女を知っているからこそ言える。
何も知らないで周りから叩かれる彼女の身にもなって見ろよ。南斗が亡くなってから俺も少しの間立ち直れない日は続いていた。

だが…美華ちゃんに取って南斗の存在が彼女にとっての人生だったんだろうな。大好きな兄が亡くなって立ち直れるような子では無さそうだし…それに彼女は心が綺麗過ぎたんだ。

"美華を笑顔に出来る人を俺は空から探すよ"

もしあの南斗の言葉が本気ならきっとまだその人は見つかってないんだろうな。美華ちゃんの目には輝きがなかった。

次の日の昼休み俺の授業が終わるとさっさとお弁当を持ち教室を出ていく美華ちゃん。
"汚いヤツいなくなったからお弁当食べよ"なんて声が次々に聞こえてきていた。随分ゴミみたいな扱いするんだな。俺は教室を出て彼女の後を追うと反対側の校舎の空き教室に入っていった。いつもあんな所で食べてんのか?

「いつもここで食べてんのか?」

「…っ」

「名前見た時にまさか南斗の妹の美華ちゃんだとは思わなかったよ」

彼女は俺の事なんか無視して黙々とお弁当を食べている。俺は彼女の前に座りおにぎりを食う。

「…何してるんですか」

「ん?飯食ってる」

美華ちゃんはそんなことを聞きたいんじゃないと言わんばかりの顔をして俺を嫌そうに見ていた。そんなに嫌がることか?一応俺ら初対面ではないんだけどな。

「喋れんじゃん」

「…」

「言いたい事あんなら言えよ」

「無断で私の事探るのやめてください」

「それは無理だ」

「…」

「俺はお前の教師だ。担任じゃなくてもお前の授業を受け持ってる限りお前の教師だ。それに南斗が呆れるほど自慢してきた妹だからな」

そう…。俺は教師なんだよ。南斗のダチとかそんなのは別として俺はお前の一人の教師だ。教師が辛い思いしている美華ちゃんをほっとける訳がないだろ。どれだけ自分が傷つこうが生徒を救うのが教師だろ?俺は間違ってないよな南斗

美華ちゃんはお弁当を片付けてそそくさと逃げようとするから逃がさまいと腕を掴むも振り払われる。…なんか結構ショック。
俺は彼女の後を追い教室に向かうと美華ちゃんに対してグチグチ言っている声が聞こえた。教室に入ると俺を見るなり黄声をあげる女子を無視して美華ちゃんの前に立つ。

「逃げてんじゃねーよ」

「…」

「…お昼はちゃんと食べろよ」

俺は美華ちゃんの頭に手を置き優しく撫でて教室を出る。美華ちゃんはみんなの前では決して喋らない子だ。きっと誰も彼女の透き通った綺麗な声を聞いたことがないんだろうな。そして本当は誰もが見とれてしまう程の美しい容姿であることもあのボサボサな髪だってわざとだろ
あんなに綺麗だった髪があんなんなるはずがないだろ。

次の日の昼休み
職員室に戻ると隣の席の山端先生が俺を見るなり顔を赤らめる。確かこの人と一番歳近かったな。25歳の俺と同じ新米教師だったかな。

「小山先生…今日の授業どうでしたか?」

「はい。今日もいい子達で良かったですよ」

「そうですか」

山端先生はそれだけ言うとどこかに行ってしまった。俺はパソコンに今日の授業のデータを打ち始める。今日はもう授業はないからこれを終わらせて明日の授業の準備だな。データ打ちが終わった頃には放課後で生徒の帰る姿が見える。俺は職員室を出て科学準備室に向かう途中に通り過ぎる生徒が"さよなら"と元気に行ってくるのを優しく"気を付けて帰れよ"といい科学準備室に着き明日の3年生で使う化学の実験の準備を軽くする。

終わった頃には生徒はもういなくて先生方もほとんど帰っていた。俺も職員室に戻り鞄を持ち職員室を出て職員玄関に向かっていると見覚えのある後ろ姿が見えた。美華ちゃんだ…俺は彼女の腕をとる。

「何があった」

「…っ」

「…送ってく」

俺は何も答えない美華ちゃんを上履きを脱がせ外靴を持たせて職員玄関に連れて車に乗せて家まで車を走らせる。美華ちゃんの家はよく行ってたから聞かなくてもわかる。

美華ちゃんはただ伏せて黙り込んでいた。
きっと言えないほどの酷いことをされたんだろうな。髪と制服なんてベチャベチャじゃんか。雑巾ぽい独特な臭いがする。寒いのかすこし震えていた。家に着き車からおろし家のチャイムを鳴らすと久しぶりの南斗のお母さんが出てきた。美華ちゃんは家に入って行き俺はお母さんに招かれて家に上がり事情を説明すると。お母さんが美華ちゃんの学校での状況を話してくれた。俺は言葉が出なかった。相当酷い扱いされてるとは思ってたけどここまでとはな…。

"空気のような扱い"
それは彼女はあの学校では存在しないも同然の扱いらしい。学校中の奴らが美華ちゃんを嫌っている。もしそれが本当ならば担任の先生が話してくれたことが納得出来る。

"田中先生見たいに俺も辞めるって"

あんなことを言ってしまったことに少しだけ後悔する。彼女にとってはだからなんだよって感じなのかもしれない。信用出来ないに決まってる。彼女を庇った田中先生が辞めた。それは彼女を見捨てて自分の身を守ったのと一緒なのだから。

「小山くん…どうか美華を救って」

「…お母さん」

「あの子私にも頼らなくなっちゃって。何考えてるのか全くわからなくてね」

「…わかりましたよ。南斗が最後まで大事にした妹なんです。必ず救って見せます」

「ありがとう…」

それからお母さんと他愛もない話をしていると後ろから気配を感じで見ると美華ちゃんがお風呂から上がって来ていた。美華ちゃんは俺を無視して自分の部屋に行ってしまった。今日のこと気にしてんのかもしれないな。俺は美華ちゃんの部屋の前に行きノックして入るとベッドに伏せている美華ちゃんがいた。


「…辛いか?」

「…」

「なんで誰も頼んないんだよ」

「…」

「お前は」

「なんで私を構うんですか」

「…」

「私、助けてなんて頼んでないです」

俺は何をしているのだろうか。美華ちゃんは"帰って"と少し強く言ってベッドに潜った。俺は静かに美華ちゃんの部屋を出て下に行きお母さんに挨拶をして速やかに帰る。車に乗り美華ちゃんの部屋の明かりを見上げる。車を走らせてる。近くのコンビニに寄りコーヒーとタバコを買い外で一腹をする。

俺は美華ちゃんにあんな事を言わせたくて彼女に構ってる訳では無い。南斗が大事にした妹を辛い思い出で終わらせたくない。それだけじゃダメなのか?なんで俺は美華ちゃんに言われたことにこんなにも傷付いてる?彼女はなんであんなに心を閉ざし閉まったのか。静香にも頼らなくなったらしいけど。俺じゃ美華ちゃんの力にはなれないのか?

「…南斗お前がいたらな…」

きっと綺麗なままの美華ちゃんだったはずだ。
あんなに他人に貶されてしまった闇を抱えてしまった子になってしまった。

南斗…お前ならどうする?

次の日俺は美華ちゃんのクラスの授業をサクサクと進めて終わると速やかに教室に出る。放課後美華ちゃんとすれ違っても見ることもなく素通りする。なんか…避けるよう行動をしてしまった。決して彼女を嫌っているわけではないけれどもどうすればいいのかわからなかった。

俺は屋上に行きタバコに火をつけて空を眺める。南斗…俺どうすればいいんだろうな。今のしてる行動が正しいなんてお前でも納得しねぇだろ?どうすれば美華ちゃんは俺を信じてくれる?美華ちゃんは…叫びたいくらい助けを求めてるはずなのになんで頼らねーんだよ。あんな小さい体に抱えきれない程の苦しみがあるはずなのに誰にも話さない。悲しいだろ…。

どうすれば昔の愛らしい美華ちゃんに戻る?
…たぶん。昔にはもう戻れないのかもしれない。けど…笑顔は取り戻せるよな?

「南斗…俺わかんねーよ」

お前との約束守れそうにねーよ。美華ちゃんが俺を見てくれない限り果たせそうにない。あの約束…いまの状況をお前は予知してたんだろ?彼女がこうなる事も全て…わかってたんだろ?だから俺にあんな頼み事したんだよな…。あの時の頼み事を理解するのに3年近くかかるなんてな…。
もっと早く彼女の側にいてやれたら彼美華ちゃんがこんな苦しむことはなかったかもしれない

南斗…お前ずるいな。全て俺に託していなくなっちまうんだもん。俺に全て背負わせる気で最初からいたんだろうな。お前の事だから。

「…っ南斗…戻ってこいよ…っ」

ダチを思って泣くなんて俺も相当あいつに染まってたんだろうな。お前は本当に心の底から良い奴だったよな。だから俺はずっとお前に付いて来てたんだよ。お前が応援してくれた夢を叶えたんだよ。だから…あ…待てよ…てことは…

「次は…美華ちゃんってわけね…アホ南斗」

次の日職員室は少しの騒ぎになっていた。
なんせあの有名なトップ高の明記樟南高等学院からの転入生が今日来るらしく。明記樟南は俺と南斗と静香の母校だ。だからこそわかる。どれだけレベルの高い高校かを。そんな所からわざわざ隣町から引っ越してきただけで転入なんておかしな話だから。ここからだって余裕で通えるはずなのに。

1時間目は美華ちゃんのクラスの授業で行くと見た事のない男子が美華ちゃんの隣に座って美華ちゃんを見ていた。あれが例の転入生か…。
たしか転入試験も満点で入ったらしいが…ここの授業なんて余裕だろうな。随分顔が整っているが女子の視線を集めていた。俺も高校時代を思い出すよ。

朝霧 斗真ね…。挨拶をするも軽くあしらわれて少しイラつくがあんまジロジロ美華ちゃんばっかり見てんじゃねーぞクソガキが。チラっと美華ちゃんを見ると目が合いすぐに逸らして授業をはじめる。ずっと朝霧が睨んでる事も見ぬ振りをして。

授業が終わり教室を出て職員室に戻る。朝霧がずっと美華ちゃんを見ていた事を考える。あの俺に対する睨みの切せかただと美華ちゃんの素顔を知ってるっぽいな…。

「ライバルかよ…」

「なんか言いましたか?」

「あ、いえ、一人言です」

山端先生に聞かれていて咄嗟に誤魔化す。俺は馬鹿か…ライバルってなんのライバルだよ。しかも美華ちゃんは生徒だぞ?南斗の大事な妹だ。殺されちまうよ。俺は気を引き締め直して次の授業の準備に取り掛かる。3時間目美華ちゃんのクラスは体育なのかグランドに2学年がいた。

…朝霧。美華ちゃんに楽しそうに話しかけていた。俺はそれを見つめていると朝霧がこっちに気づき勝ち取った顔をして見ていた。さすがに少し腹が立つな…馬鹿にしやがってクソガキが…
俺はグランドから目を逸らして職員室を出て3年の教室に向かう。

「小山先生今日はどんな事するの?」

「軽く今日は実験だ」
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