大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
葛城に呼ばれて、突然やってきた乳母は、私の脈を取り、額に手を当てて熱を診(み)てから、尋ねた。

「お妃様、前回の月の穢(けが)れはいつで
ございましたか?」

記憶にない。

そこでいつも私の世話をしてくれている女官が呼ばれた。

「もうふた月近く、離れには行かれてません
し、月帯(けがれぬの)も洗っておりません。」

大王の妃は、月の穢れの間、大王を不浄から守るために離れに籠り、月帯を締めて身を清めて暮らす。

でも、それがふた月もないって………

それって………

「お妃様、おそらくご懐妊されております。
ですが、この時期はちょっとした事で、お子が
流れる事もございます。
あと三月(みつき)は、穏やかに安らかに
お過ごしください。」

と乳母は言った。


懐妊………

ここに、大王のお子が?

本当に?

嬉しい!!

「ありがとうございます。
初めての事で、分からない事ばかりなので、
いろいろ教えてください。」

私は乳母に頭を下げた。

里にいれば、母に頼る事もできる。

でも、香久山には、母はいない。
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