THE FOOL
「・・・あの、雛華さんって」
そこまで言いかけてしまったと思う。
乱れた髪の隙間から覗くグリーンアイが不満を抱いて私を見つめたから。
仕事を終え食事して、宣言通りに予想以上の濃密な時間を作りだし、今はその余韻冷めやらぬ事後のタイミング。
そのタイミングに他の男の名前を出したのは私のミス。
それを知っているから口を閉ざし苦笑いで逃げきろうと試みたのに、そこは意地の悪い美麗な悪魔。
「芹ちゃんって意外とチャレンジャーだよね?」
下級の悪魔なら逃げ出しそうな程の悪魔の到来。
ニヤリと頬笑みのっそりと体を起こすと私をベッドに縫い付け見降ろしてくる。
こ、これ以上はもう無理だと無意味に首を横に振ると、それすらも楽しいらしい男の軽い笑い声。
「ふふっ、何がイヤイヤ?」
「も、もう・・・体限界です」
「困ったなぁ・・・・俺、まだ実力の半分も出し切ってない」
「・・っ・・・じ、自力でお願いします」
そう言って顔の前で腕を交差させ本当に無理だと意思表示すれば、軽いため息を混ぜて私の上からどく姿。
自分の上の圧迫感が消えると同時に響く声。
「で?雛華が何?」
その言葉にさっきの自分の質問を思い出し、答えてくれるのかと振り返る。
捉えた姿はベッドサイドに置いてあった水のペットボトルを煽る姿で、ごくりとそれを飲むと私もいるか?と差し出してきた。
それを受け取りながら途中で途切れていた言葉をようやく続けた。
「雛華さんって引きこもりって言ってましたけど・・・友達とかいるんですか?」
「・・・・いや、知り得る分には記憶しない。あいつは親戚の中でも言葉をかわすのは僅かじゃない?」
「が、学校とかは?」
「うーん、小学校まではまともに行ってたかな。だけどあいつってあの通り自分の世界だろ?友達出来ない上にいじめの対象」
いじめ。
その言葉にドキリとし、その心中を想像して眉尻を下げる。
どれだけ辛かったのかと心底その感情に浸りそうだったと言うのに、次いで加えられた言葉に思考が止まる。
「ま、本人は苛められてる事も気が付いていないほど自分の世界だったらしいけど」
さらりと言葉にした茜さんが懐かしそうに遠くを見つめる。
口元に弧を描いて。