目を閉じたら、別れてください。

知的で、寡黙て、私の理想のタイプだった。

振り回しても、大人な彼は私に付き合ってくれた。

あそこに行ってみたい、あれが食べたい、それをしてみたい。
全部叶えてくれる理想の人だと。

『もう会うのを止めよう』

それなのに、たった一つのことが嫌で逃げ出した私に、彼は今も優しい。

あのまま付き合っていたら、寡黙でオトナな彼のふりをしてくれていたのかな。
今の姿を段々ばらしていくのかな。

そんな未来を私が壊した。それなのに、ひらひら落ちてきた名刺には裏に電話番号が書かれていた。


『番号は変わってないよ』

私は彼にきちん嘘を謝罪しないといけない。
名刺に頬擦りしている場合ではないのだ。

「だったら、ここの都築さんを連れていけばいいよ」
「なんで都築さん? 彼女事務じゃないか」

笹山と彼から私の名前が出て、名刺から顔を上げる。

「彼、専務の姪っ子だから。そんなに本社が嫌なら彼女といけばいいよ」
「あーなるほど。助かる! 専務、雰囲気がさ、凡人が話しかけるなってオーラしてんだよなあ」
「わかる」

ほんと、舌の根も乾かぬうちにこいつは嘘を次から次へと吐く。
うちの叔父さんとは飲みに行くぐらい仲良しのくせに、何が凡人だ。
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