Shine Episode Ⅰ


先日、食事に誘われた席で栗山から交際を申し込まれた。

悪い気はしなかったが戸惑いのほうが大きかった。

いつも穏やかで、何かと声をかけてくれる先輩を頼りにしていた。

水穂にとって、栗山はそんな存在だった。

異性というより兄に近い栗山に 「好きだった」 と言われ、正直答えに詰まった。



「誰か他に付き合っている人がいるの?」


「いえ……」


「そんなに難しく考えないで、僕の一方的な気持ちだから。でも、真剣だってことはわかってほしい」


「はい……でも、わたし……なんていうか、あの、すみません」


「ははっ、香坂さんは真面目だね」



あまりに幼稚な自分の答えが恥ずかしく、栗山の申し出をなんとなく受けてしまった。

レストランを出て二人で雑踏を歩いた。



「今夜は人が多いね」



栗山は、躊躇うことなく水穂の手を取って歩き出した。

手をつないで男性と歩くのは久しぶりだった。

行き交う人の波から水穂を守る手に、守られているのだと感じながら、栗山を警戒する気持ちは手放せない。

仕事柄、籐矢とともに一緒に行動するが、彼は水穂をおいてドンドン歩いていってしまう。

だが、籐矢のそばに一日中いても、彼に警戒心を抱くことなどなかった。

食事にしても、屋台でもレストランでも変わりなく振舞えるのにと、栗山と歩きながら何度となく籐矢の顔が出てきた。

水穂は、昨夜の自分を思い出して、フフッと声が出た。



「ため息の次は思い出し笑いか? 飽きないヤツだよ」


「なんとでも言ってください」



言い返す気力もなくなり、水穂は投げやりな言葉で会話を締めくくった。

そっぽを向いた水穂を横目で見て、籐矢も口を閉じた。

少々言い過ぎたようだと思いながらも、黙ってしまった水穂といるのは楽しくないものだと感じていた。

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