Shine Episode Ⅰ
「ジュン、面白いものが見られるかも。ちょっと来て」
「なによぉ」
「いいから」
ユリに引っ張られて行った先に、籐矢と水穂の姿があった。
フロントでコートを受け取った籐矢は、車のキーを手にしている。
「神崎さん飲んでるじゃない。飲酒運転はダメよ、ちょっと言ってくる」
「飲んでないわよ。一滴も」
「ウソ! なんで」
「水穂を送るためだと思う。見てあの二人、いい雰囲気でしょう」
「そうかな、いつもの二人だけど……」
「とぼけないでよ。ジュン、ホワイトデーの賭け、まさか忘れたわけじゃないでしょうね」
「わっ、忘れてないよ」
「じゃ、行くよ」
ジュンは、またユリに手を引かれて籐矢と水穂のあとを追った。
駐車場への通路を、普段と変わりなく言葉を投げあいながら進む二人は、後ろの二人には気がついていないようだ。
「面白いことってなに? いい加減に教えなさいよ」
「しっ、静かにして!」
ユリが口に指を立てたあと、ジュンの脇腹をつつき駐車場の垣根に身を寄せた。
しばらくして籐矢と水穂を乗せた車は、ジュンとユリの目の前から走り去り、残された二人は驚きで顔を見合わせた。
「おっどろいた! まさか、あの二人のラブシーンを見るとは思わなかった……」
「うん、私もここまでとは思わなかった。ふたりのあとをつければ、もしかして手でも繋ぐかと期待してたけど……
はぁ……ずっと息を止めてたから、呼吸困難になりそうだったぁ」
「私の負けだね。いいよ、潔く負けを認めようじゃないの。豪華ディナーでもフルコースでもなんでもこいよ!」
「さすがジュン、太っ腹! ご馳走になります」
ユリはおおげさに手を合わせて至極満足げだった。
「はい、はい」 と投げやりな返事をしながら、ジュンはすでに遠ざかった車のあとを眺めながら、肩で大きく息をした。
「あの水穂がねぇ……ちゃーんと女に見えたわ」
「そうね、いい顔してた。でもさぁ、あんな熱烈なキスをされたら、誰だって女の顔になるんじゃない?」
「言えてる……ねぇ、こうよ、こう! 左手で水穂の首をグイと引き寄せて、いきなり唇を奪って濃厚なキス。
キャーッ! あー、まだドキドキする」
「神崎さん、ためらいもなくキスするんだもん。車に乗る寸前に引寄せるなんて、あれじゃ水穂も拒めないでしょう。
もっとも、水穂も嫌って顔じゃなかったけどね。それにしても、よくも私たちを欺いてくれたじゃないの」
「まったく、二人とも何でもありませんって顔しちゃって、あのキスはなに? あぁ~私も恋人時代に戻りたくなってきた」
「帰ってダンナに迫ったら?」
「それいい! さっ、帰ろっか」
「あはっ、素直だこと」
友人の恋の顛末に満足した二人は、そのまま夫の待つ家へと帰っていった。