難病が教えてくれたこと
割とギリギリになってしまったけど、出来たあ〜
生まれてくる前に完成してよかった…
「じゃあ私、もう行くからね。」
「えっ、帰るの?」
いつこの腹痛が来るかわからないのに帰っちゃうの?
ねえお母さん酷くない?
「まだ産まれないわ。お腹は痛いかもだけど、大丈夫だから。」
…確かに慣れたような痛みというかなんというか…
生理痛みたいな痛みだからな…まあ我慢できる。
「もし酷くなってきたら看護師さん呼びなさい。」
お母さんはニコニコ笑うとカバンを片手に帰って行った。
…さて暇だ。
何をしよう。
枕の下から小説を数冊取り出す。
1冊はまだ読んでる。
あとの3冊はまだ手付かず。
お隣の病室の人が退屈だろうって言って持ってきてくれた。
優しそうなメガネのお兄さんが。
ーコンコン…
「どうぞ。」
「やあ。」
「あっ、お兄さん、こんばんは。」
そうそうこの人。
メガネかけててちょっと知的な感じがいい。
「僕も暇だから遊びに来ちゃった。」
「私も暇でしたからちょうど良かったです。」
このお兄さんはガンで入院しているらしい。
手術して切除してしまえばもう退院だ。
「そういえばいつ産まれるの?」
「そのうちですねえ〜」
趣味も合うし歳も近いからすぐに仲良くなっちゃった。
同じアニメが好きなんだよね。
「僕の彼女もそのうち生まれるんだよ。」
「え、彼女いたの?!」
…まあ今更ながらの報告でしたわ。
だってね?
左手の薬指にね?
きらりと光るものがね?
見えてるんだから!
「彼女じゃなくて嫁じゃないの?」
「…あー、うんそうだね…ははは…」
どんだけ彼女のこと好きなの…
想像してるだけで幸せそうな顔になるんだもんなあ…
「彼女、今実家に帰っててね。」
「あー、寂しいですね。」
「それもあるけど、少し言い合いしちゃってね。
寂しさ倍増。」
はははって笑ってるけど、黒のフレームのメガネの奥。
その瞳は悲しみで満ちていた。
「いつ帰ってくるんですか?」
「さあ。」
…はあ?
さあって…
「会いにいくっていう選択肢は?」
「ああ、手術してから行くよ。
さすがに今のまま、行くわけに行かないからね。」
2つの事でほっとした。
1つは逢いに行くってこと。
2つ目はもし行くってなったなら、今はダメってこと分かってるのかってこと。
…この時感じた。
少しの不安。
あんまり気にしなかったけど、現実になってしまうなんて思いもよらなかった。

この話の3日後。
お兄さんは隣の病室から姿を消してしまった。
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