亘さんは世渡り上手



「亘さん、熱いから保健室に行ったほうがいいよ」


「えっ」


「熱でもあるんじゃない?」


「いえ……ないですから」



瞬間、亘さんの頬は平温に戻っていき、さらには俺に向かって残念そうな顔を向けてきた。


俺、心配したのに……。でもまあ、熱がないならいいんだけど……。



「それで悠里ちゃん、なんでしたっけ?」


「クリスマスの話だけど……」


「クリスマスは家族と過ごす予定ですよ」


「いや……もういいわ」



噛み合わないトンチキなやりとりに嫌気が差したのか、谷口は八木の方へ歩いていってしまった。


悲しそうに谷口を見送る亘さん。



「わたし、何かしてしまったでしょうか……」


「質問と全然違うこと答えてたよ」


「あ……それは、申し訳ないことを……」



亘さんはチラと俺を見てしばらくすると、またぼーっと呆け始めた。


でも、目は合わない。だから、亘さんが見ているものは……。


目より少し下の……鼻より下で、首より上……口?


亘さんは俺の口を見て、また頬を赤らめる。


んん……? 俺の口に何か付いている……なら、さっきも口を見ていたはずだ。



「亘さん……?」


「あっ……。す、すみません……」



恥ずかしそうにうつむく亘さんに、俺は首を捻る。



亘さんが変だ。

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