亘さんは世渡り上手
八木は何かを思い出したように「あ!」と声を上げて、周り――特に高橋と宇佐美を確認した。二人は、
「あ!? 俺次の競技出るじゃん! 並ばねぇと!」
「早く行け」
と慌ただしくて、こちらを見る気配もない。
それを見た八木は一度深く頷いて、俺との距離をぐっと詰めてきた。太陽の香りのような何かが鼻をかすめる。
「……理人って、マジで亘さんのこと好きなん?」
そうやって疑われるのは、初めてだった。核心を突かれたように心臓に衝撃が来て、大きく跳ねる。
「うん、好きだよ」
まさか、一番話す機会のない八木に見抜かれるなんて。
俺の頭はどうにか笑顔を取り繕おうと、口角を上げる信号を送り続ける。
「ふーん……。あ、ごめん、疑って。なんとなく、そうは見えなかったというか。ただの勘だから。気にしないで!」
女の勘はよく当たるもんだな……。
亘さんも見透かしてくるし、俺ってそんなに嘘吐くの下手なのか?