亘さんは世渡り上手
「よーっす、理人! ぼっちじゃん! 谷口は?」
取り残された俺に声をかけたのは、八木だ。谷口と一番仲の良い女子で、はつらつとした笑顔が褐色の肌によく似合う。
勉強会で英語に苦戦していた、あいつだ。ちなみに国語は宇佐美。
よく見れば、後ろには高橋と宇佐美もいた。これであと谷口さえいればいつもの四人の完成なのに。
「谷口なら、亘さんとトイレに行ったよ」
「マジ? 行き違いかぁー」
そう言って、八木は俺の隣にどかっと座った。
八木は、俺と同じリレーメンバーに入っている。亘さんと違って見た目から運動ができそうで、勉強はできないけど体育祭は頼りになりそうである。
「宇佐美、プログラム見せろ!」
「はいはい、次は……」
高橋と宇佐美は後ろの方で種目の確認をし始めた。俺の記憶では借り物競争は昼休みの前、リレーは午後から、クラス全体も午後だけなので俺の出番はもう少し先だったはず。
だからこうして、炎天下に身を委ねながらあぐらを掻いてるわけだ。
「まだ六月なのにもうこーんなに暑いんだねぇ」
八木が体操服をパタパタと揺らしながら言った。健康的な色の鎖骨が見えて、慌てて競技が行われている方向へ視線を動かす。
「たぶん、これからもっと暑くなるよ」
「それなー! 夏は好きだけど、動いてないのに疲れるのは勘弁だよ!」
まさに今の俺の状況だな。