亘さんは世渡り上手


第一走者、谷口。


気合いが入りすぎてひとりだけクラウチングスタートをしていた。


運動神経は並。お題の紙に着くまではニ、三位を競って、紙を取った。


谷口はキョロキョロと周りを見渡すと、一番近くの先生から眼鏡を奪う。どうやら、お題は眼鏡だったようだ。眼鏡なら……かけてるやつはそこら中にいるし、一位になるかもしれない。


嫌な予感を抱えてゴールへ走る谷口を見ていると、横から別のクラスが追い抜いてきた。



「あ……!」



俺からそんな声が漏れたとき、脳に俺の気持ちが理解されていたことに気付く。


このままじゃ、谷口は負けてしまう。


必死に隠していたのに、自分にはお見通しだった。



――俺は、俺を好きだと思ってもらえて嬉しかったんだ。



人を愛することはしないくせに、愛してもらえば喜ぶ。それは……そう、アイツと一緒だ。だから、信じたくなかった。愛されることがなによりも嫌いになる予定だったのに。


俺は今、谷口に勝ってほしいと思ってしまった。それは、告白をされてもいいという意味と同じだ。


受け入れないくせにな。

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