亘さんは世渡り上手


……谷口は、結局一位にならなかった。


遠くからでもわかるくらい悔しそうな顔で二位の旗の前に座る谷口に、ほっとする俺ともやもやする俺の二人がせめぎ合う。


これは……よかったって、思うべきだ。なのに、どうして俺は――



ボスッ。



背中に衝撃が走る。別に痛いわけでもないのに、このときの俺にとって目を覚ますには十分すぎる衝撃だった。



「亘さん……」



それは、俺の背中を殴った亘さん。上目遣いでグッと俺を睨み付けると、口を開いた。



「和泉くんは、わたしだけ見ていてください」



俺をまっすぐ見つめるその瞳。


いつもと違って、わかりやすいくらいはっきり怒りを含んでいる。


それなのに俺はなぜかそれに大きく心臓が跳ねて、バクバクと鼓動が早くなった。


……亘さんはいつも、俺から『和泉理人』を取り戻させてくれる。


それがわざとなのか天然なのかは知らないけど、俺にとっては救いでしかなかった。

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