亘さんは世渡り上手
「あ、和泉くん」
「えっ!? 理人!?」
亘さんが呟けば、谷口は焦った顔で俺を振り向く。俺は何も聞いていないふりをして「二人ともおつかれ。亘さん、おめでとう」と声をかけた。
「はい。和泉くんもおめでとうございます」
「そ、そう! 理人もすごかったじゃん! 借り物もリレーも一位になるなんて、足早いんだね!」
……そう、俺も借り物競争は一位になっていた。ついでに、リレーも。でも、リレーは団体競技でアンカーのやつが頑張ってくれたおかげだ。
相変わらず無表情の亘さんと、一位を取れなくて悔しそうにしながらも必死に笑顔を取り繕う谷口。
「谷口~! 借り物二位おめでたくない!」
そこへ、谷口をからかいにきた八木がやってくる。
「ちょっと! デリケートな話題やめてよ!」
「あはは! ま。また来年あるんじゃん?」
「そうですよ谷口さん。また来年、やりましょう」
「むっ、むかつくその余裕~~!」
八木の笑い声と谷口のうなり声が響く中、俺の視線は亘さんに釘付けだった。
どうして俺はあのとき、亘さんに俺を見てほしいと思ったんだろう。
――俺は、亘さんのことをどう思っているんだろう。