亘さんは世渡り上手


体育祭が終わった。


教室に戻れば、女子達が使ったスプレーや汗拭きシートの臭いが充満している。思わず息を止めてグッと堪えた。



「わっ、亘さん……っ! 今日は負けたけど、次は私が勝つんだから!」


「またやるんですか?」


「あたりまえでしょ!? 亘さんからなんていくらでも理人を奪い返せるんだから!」


「それは……予想外でしたね……」



教室の隅では、亘さんと谷口が喧嘩している。


亘さんがいつ告白してくるのかわからなくて、俺は妙に緊張していた。


というか、二人とも俺がいるのに言い合いすぎじゃないだろうか。わざとかというくらい、言い合ってるところに遭遇するんだけど。


そりゃあ、意識しなければ聞こえない会話だけど、俺が意識しないわけないんだからもっと周りをみてほしい。


それとも、わざとなのか? 会話するとき、いつも谷口は俺に後ろを向いていて、亘さんは俺が見える位置にいる。谷口が興奮して周りが見えない状況になっていれば、亘さんが止めない限り口論は終わらない。


亘さんはいつだって周りを見ていて、この前も……たぶん今も、俺がいることに、そして聞いていることに、気づいている。


わざと聞かせているんだとしたら、それはなんだ? 俺へのアピールか?

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