亘さんは世渡り上手
帰りの挨拶を終えていつも通りいち早く教室を出た。廊下に出て、追い付いてもらえるよう流れに遅れてゆっくりと歩を進める。
「和泉くん、一緒に帰りませんか?」
後ろからかかった声に、俺は予定通り笑顔で答えた。
「――うん、いいよ」
ついに来たか。
鼓動が緊張で早くなる。告白されるのなんて初めてじゃないのに、今までと比にならないくらい空気が重い。
校舎を出ると、ポニーテールをほどいた亘さんの黒髪が宙を舞った。頬を撫でる風は冷たい。すっと心が冷めて、呪いのように口角が上がった。
きりりと決心したような表情の亘さんにぐいと袖を引かれ、グラウンドの方へと導かれる。グラウンドでは、運動部がちらほらと部室から出てきていた。まばらなのにひとつひとつ大きい運動部の声が、会話のない俺達には余計に響く。
木の影へ隠れれば、日光と体育祭で火照った体がすっと治まっていった。
「和泉くん、わたしに、告白をさせてください」
「……どうぞ」
誰も俺達になんて気付かない。誰も俺達を気にしない。
俺の答えは決まっているはずなのに、なぜか亘さんからの言葉に期待する自分がいた。