亘さんは世渡り上手
「――わたし、和泉くんのことがもっと知りたいんです」
亘さんは俺の手をぎゅっと握り、距離を詰めてくる。
「わたしに、和泉理人くんのことを教えてください」
もう見慣れてもおかしくないくらい見てきたのに、やっぱり俺は亘さんにじっと見つめられると弱かった。言葉が出ない。ただただ瞳孔が開いて、目の奥を見るような亘さんに抵抗もできない。
用意していた「ごめん」の三文字。好きだなんて言われていないから、使う意味もなかった。
――亘さんは、俺のことが好きじゃないのか?
脱力した。それと同時に、期待していた自分に対していたたまれない気持ちになる。
「……あなたは、どうして好意を向けられるのを拒むんですか? わたしに気のある演技をしながら、どうしてわたしからの好意から逃げるんですか?」
俺の手は熱くなる。亘さんの手はいつも冷たいから、この熱を亘さんに移してしまいたいと思った。
ぐさぐさと刺さる亘さんの言葉。なんなんだろう、この観察眼は。本当に俺の頭の中が目で見えるのだろうか。
「……いいえ。それよりも――」
亘さんは眉を潜める。
「どうして今、泣きそうな顔をしているんですか?」