彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜


コンテナが大きな音を立てて床に叩きつけられると共に、中の古文書が一面に散らばった。

絵里花は背後から史明に抱きしめられるかたちにはなったものの、そこから甘い空気は醸されなかった。史明の腕からは不穏なものが発せられ、絵里花がおずおずと振り向いてみると、案の定史明の表情は険悪なオーラを漂わせていた。


「古文書は貴重なものだという感覚が、君にはまだないのか?高いところのコンテナを降ろす時には、声をかけるように言ってたと思うんだが?!」


いつものように怒鳴られはしなかったけれど、凄味のある静かな声に、いつも以上の怒りがにじみ出ている。


「……す、すみませんでした」


絵里花はまともに史明の顔を見ることもできなくなって、すぐに腕の中を抜け出し、跪いて古文書を拾い始めた。史明も一緒になって、ぶちまけられた古文書を拾い集めてくれたけれど、絵里花は手が震えて、それもままならない。ただ、込み上げてくる涙を隠すのに必死だった。

思い切って行動を起こしてみた〝作戦〟も効果を感じるどころか、絵里花は自分のしたことが本当に恥ずかしくなって、消え入りたくなる。
こんなバカなことをしてしまっては、呆れられて、却って絵里花への気持ちも冷めさせてしまうかもしれない。


< 26 / 89 >

この作品をシェア

pagetop