彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜



――…というより、礼子の言ってた通り、岩城さんは古文書が目の前にあると、私のことなんてどうでもいいんだろうな……。


古文書を戻したコンテナを、テーブルまで運んでくれている史明。絵里花はその背中を見つめて、絵里花は唇を噛んだ。

無言のままテーブルに着いて、いつもの自分を取り戻すことに努める。おずおずと目をあげて、目の前にいる史明の様子を窺っても、分厚いレンズに隠されて確かめることはできない。

絵里花は史明に気取られないよう小さくため息をつくと、史明が運んでくれたコンテナから古文書を一通取り出した。



落ち込んでしまった心を紛らわせるべく、絵里花は勤務が終わった後、近くのバス停からバスに乗ることなく、フラリと街を歩いてみた。


――そうか……。もうすぐクリスマス。


街の中は、どこもかしこもこの季節らしい飾り付けで埋め尽くされている。淡い色で幻想的に、色とりどりに可愛らしく。いろいろと趣向が凝らされているイルミネーションを見ているだけで、気持ちは自然と浮き立ってくるけれど、この日の絵里花の心にはキュッと切ない感覚も追いかけてくる。


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