彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
史明の唇がほのかに赤らんでいる。絵里花は手を伸ばして、そこについている口紅をそっと指先で拭い取った。
分厚いレンズに阻まれていても、その向こうの眼差しが優しく和んだのが、絵里花には分かる。
史明は絵里花の行為に触発されたのか、絵里花の肩を抱き寄せて覗き込むと、そっとその唇に口付けた。
その瞬間、絵里花の胸がキュッと軋んだ。唇が触れ合っただけのキスなのに、さっきよりももっと想いが募ってどうしようもなくなる。
「君の部屋はどこ?」
キスの後の甘い余韻を残しながら、史明が囁いた。
一緒に〝お茶が飲める〟という期待が一気に高まってくる……!
「あの、4階の左から2番目の部屋です」
心を逸らせながら、指をさして説明する。
史明はそこを見上げて頷くと、再び絵里花へと向き直った。
「それじや、君が無事にあの部屋たどり着いて、明かりを点けるのを見届けてから、帰ることにするよ」
――……え?!やっぱり帰っちゃうの?
絵里花は拍子抜けした顔で、史明を見上げた。
絵里花の心の内の切ない願望に気づいているのか、いないのか……。
「ずっとこんな所にいると、体が冷えて風邪をひく。さあ、早く行って」
史明はそう言いながら、絵里花の背中を押した。