死神の恋
サツキの植え込みから不意に現れた人影に過剰反応してしまったのは、寂しげな裏庭になんの前触れもなく人影が現れたせい。
私は幼稚園の納涼会のきもだめし大会で幽霊に仮装した先生に驚いて、おもらしをしてしまったことがトラウマになっているのだ。
高校二年生になった今はさすがにおもらしはしないけれど、些細なことでもすぐに怖がる癖は簡単には治らない。
「未来、大丈夫?」
ギュッと閉じたままだったまぶたを恐々と開いた先に見えたのは、私を心配げに見つめる真美の顔。クリッとした丸く澄んだ瞳は、五歳の頃の面影を残したままだ。
「う、うん。大丈夫」
私には真美がいる。
幼い頃からいつも私のそばにいてくれる真美に安心し、バクバクと音を立てていた心臓も少し落ち始めた。
サツキの植え込みから姿を現した人物は、旭ケ丘高校の制服であるブルーのワイシャツにグレーのスラックスを身に着けている。目もとは、ウエーブがかかった長めの黒髪で隠れて見えない。
目の前に現れたのが幽霊ではなく、男子生徒だったことにホッと胸をなで下ろす。しかし怪しげな雰囲気を醸し出す彼に油断はできない。
ピンと背中を伸ばす真美の腕に再びしがみつくと、私たちのもとに近寄ってくる彼をじっと見据えた。
彼は厚みのある唇を上下に大きく開いて派手なあくびをすると、癖のある髪の毛をクシャクシャと掻き乱す。