死神の恋
「お、お待たせしました」
挨拶がぎこちなくなってしまったのは、彼に勉強を見てもらうことに引け目を感じているから。しかし彼は焼きそばパンを頬張ったまま、小さく首を左右に振った。
「いや、別に待ってないから」
「……」
相変わらず、彼はマイペースだ。
「で? どこがわからない?」
まだベンチにも座ってないというのに、わからない箇所を早々と尋ねてくる彼はやはりマイペースだ。
「あ、えっと……」
彼の隣に腰を下ろしてベンチの隅におにぎりを置くと、ペラペラと教科書をめくった。
数学の授業についていけなくなったのは、夏休みが明けてすぐ。この前の課題プリントも半分ほど空白のまま提出してしまったほどだ。
「ここからさっぱりわからなくて……」
教科書を広げて理解不能な数式を指さした。すると彼は「ああ、これか……」とうなずき、その問題について説明し始める。けれど早口で淡々とした彼の説明は、私には怪しい呪文にしか聞こえない。
これはマジでヤバい……。
「ちょ、ちょっと待って」
慌ててペンケースからシャープペンを出し、膝の上にノートを広げた。
昼寝の時間を割いて、私に勉強を教えようとしてくれている彼の好意を無駄にするわけにはいかない。
気合いを入れ直すと、彼のアドバイスに従って問題を解いていった。