曖昧なポジション

慌てて隣りを見るとそこにいるはずの人の姿はなく、覚醒していない頭でやっと理解した。


「疲れているようなので、起こされませんでした」

「そうですか」


親切な運転手さんは状況を説明してくれた。


「あ、お金……」


お財布を取り出そうとするより早く、運転手さんは笑った。


「もう彼に頂いてますよ。今、お釣りを出します」


「そうですか……、」


「彼、どなたか知り合いを見つけたようで。途中で降りてしまって。1万円札だけ、慌てて置いていかれました」



途中で降りた……?

知り合い…………?



「どんな方でした?その知り合いは?」



再び会う確率が少ない運転手にだからこそ、尋ねられた質問。



「可愛らしい女性でしたよ」


「…そうですか」



お釣りを受け取り礼を言ってタクシーから降りた時には、心が悲鳴を上げていた。


水沢はタクシーを降りて、彼女と手を繋いで帰宅したのだろうか。


ある意味、呑気に眠っていて救われたのかもしれない。


微笑み合う2人の姿など、絶対に見たくないよ。

< 13 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop