曖昧なポジション
慌てて隣りを見るとそこにいるはずの人の姿はなく、覚醒していない頭でやっと理解した。
「疲れているようなので、起こされませんでした」
「そうですか」
親切な運転手さんは状況を説明してくれた。
「あ、お金……」
お財布を取り出そうとするより早く、運転手さんは笑った。
「もう彼に頂いてますよ。今、お釣りを出します」
「そうですか……、」
「彼、どなたか知り合いを見つけたようで。途中で降りてしまって。1万円札だけ、慌てて置いていかれました」
途中で降りた……?
知り合い…………?
「どんな方でした?その知り合いは?」
再び会う確率が少ない運転手にだからこそ、尋ねられた質問。
「可愛らしい女性でしたよ」
「…そうですか」
お釣りを受け取り礼を言ってタクシーから降りた時には、心が悲鳴を上げていた。
水沢はタクシーを降りて、彼女と手を繋いで帰宅したのだろうか。
ある意味、呑気に眠っていて救われたのかもしれない。
微笑み合う2人の姿など、絶対に見たくないよ。