曖昧なポジション
電車の中で水沢は仕事の話題をふってきて、無視するわけにもいかずに適当に相槌を打った。
重い気持ちのまま到着した映画館は予想以上に混んでいて、チケットを買う行列に並ぶ。
「どれ見るの?」
「お前の好きなのにしろ」
映画に誘った張本人の台詞だとは思えない投げやりな言葉。
「…そう?どうしようかな」
どんな小さいことでも水沢は自分の考えを曲げないと、分かりきっている。
ここは遠慮なく私が見たい映画を選ばせてもらおう。
「アレにする」
近くに張って合ったポスターを指すと、水沢は笑った。
その笑顔にドキリと反応してしまう。
うるさい、心臓…。
落ち着け、落ち着くんだ。
「だと思った。おまえ、あの女優が好きだもんな」
「うん」
好みを覚えていてくれたことが、嬉しいだなんて。単純すぎる。