きっと夢で終わらない

「何か出ますか?」


毎年この時期にやるのは、教育実習生の思い出づくりとも聞いたことがある。
特に弘海先輩のクラスの担任は、体育担当の高橋先生だ。
しかもこの学校で一番強い、ハンドボールの顧問。

問いかけに、弘海先輩の顔が苦くなる。


「多分、借り物競走」

「ああ、先生達の」

「そう。高橋先生に『お前絶対出てその若さで一位取れ』って。……無茶でしょ」


尻すぼみに弘海先輩は弱々しく呟いて、ため息をついた。

先生対抗借り物競走は、名物種目。毎年難題のお題に悩まされる先生が見ものだ。お題の例としては「ツインテール」とか、「右目下にホクロがある人」「ニーハイの人」「赤縁メガネ」「シックスパック」などなど。順位が決まるのに時間がかかるし、過去には最悪3位までしか決まらない年もあったとか。ゴールできなければ0点だが、一位を獲得すれば一気に十点入るので、クラスを持つ先生の意気込みはすごい。

でも弘海先輩は、この学校に入るまではサッカーをずっとやっていたと聞いていたから、体力に自信があるのでは? と思うけれど、醸し出す態度からそういうことではないらしい。
たしかに、あれは半分運だ。


「1位が出るのにも時間かかりますもんね」

「しかもあの変なお題。誰がいつも決めてるんだろう」

「生徒会らしいですよ」

「恨む、ひどい。むりぃ」


完全にうつ伏せて、唸る弘海先輩。
駄々っ子。子どもみたい。
笑うと、ジト目で睨まれた。
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