大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「千歳くんから、今日電話あった?」
「え、ないよ。かかってきてない」
さっきは千尋と千歳くんを間違えてしまったわけだけど、夏の終わりに電話をしてから、千歳くんとは電話をしていないし、たぶんあれが最初で最後な気がする。
どうしてそんなことを突然聞いてくるんだろう、と不審に思いながらが首を横に振った私に、千尋は安堵の表情をうかべた。
「そっか。……あのさ、もし、千歳くんから電話かかってきても絶対でないで」
「なんで?」
「なんでもだよ、虹」
有無を言わせない微笑みを横たえて、瞳を合わせられれば、戸惑いながらも頷くしかなく。
やっぱり変だ。
今、目の前にいる千尋はどこかおかしくて、だけど思い当たる理由もなく、どうしてなのか見当もつかないのがもどかしい。
千尋の頭上には欠けた月がのぼっていて、一度千尋から目をそらして空をみあげる。
今夜の月はあんまり綺麗に映らない。
欠けているからとかそういうことではなく、周りに灰色の雲が揺らめくように浮いているから。
怪しくて不穏で、どこかむなしい、そういう雲。
「虹、」
「なに?」
「もし、千歳くんがさ、……」
「……」
何かいいかけて千尋は一度、口をつぐみ、それからどこか切なげにわらった。
「いや、なんでもないわ、やっぱり」