大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「なにもないなら、明日、俺と動物園いく?」
突拍子もないことをいって、私にむかってわずかに首をかしげた。
本当に、変だ。
私が頷けば、土曜日に千尋と動物園にいけるというのに、いつもなら絶対にしないような提案をして私の前に佇んでいる千尋が果てしなく不可解で、答えることも忘れて一瞬フリーズしてしまった。
幼い頃から、どちらかというと動物園が好きだったのは私と千歳くんで、千尋はあんまり興味がなかったように記憶している。
千歳くんに振られた次の日の朝、動物園に行こう、と言ってきたのだって、私をなだめるために、楽しませるために、誘ってきただけであって、別に千尋が行きたいわけではなかったはずだ。
だから、どうして、この変なタイミングでそんなことを言ってくるのか訳が分からなくて、ちょっと困る。
何も答えない私を千尋はじっと見ていて、それから、はー、となぜか溜息をおとした。
「動物園が嫌なら、別にどこでもいいけど。虹は、明日、俺とどっか行く。悪いけど、これはもう決定」
「……強引」
「優しいの間違いじゃない?」
「何それ。どこが、」
「どこもかしこも。まー強引でもなんでもいいけど、とにかく明日は家にいたらだめだから」
私が家にいようがいないでおこうが千尋には何も関係ない気がするけれど、どうやら千尋にとっては何か関係があるようで、
そこまで言われたら、不可解でなんでも降参するしかなく、私は、よく分からないまま、「分かったよ」と千尋に言う。
そうしたら、千尋がほっとした表情を浮かべて、ポケットにいれていた手をだした。