大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「で、動物園いく?」
「うん、別にいいけど。でも、なんで?」
「いや、なんか、久しぶりに動物みたくなった。結局あのときもいけなかったし、」
なにそれ。
久しぶりに動物がみたくなった、ってやっぱり千尋はちょっと変なところがある。
でも、なんだかもう不可解さを通り越して、長年の付き合いなのにはじめて二人で土曜日に出かけられることにわくわくし出す自分も顔をのぞかせてきている。
百瀬さんと休日に買い物にいったことにも前は嫉妬していたし、なんだかほんの少しだけ同じ土俵に立てたみたいで嬉しくて。
しかも、大好きだけどずっといけていなかった動物園が、出かけ先だからなおのこと。
何着ていこう、とか、どういう髪型でいこう、とかそういうことも早速考えはじめた私は、十二分に目の前の人に恋をする女の子だと思う。
「朝、九時に迎えに行くから。寝坊しないで」
「それはこっちのセリフだよ。朝弱いのは千尋でしょ」
「俺は、タイマーかけまくるから大丈夫」
休日の朝九時は千尋にはレベルが高い気がするけれど、本人が大丈夫っていうのなら、別にいい。
「じゃあ、それだけ」と千尋は一度私の頭をかするようになでて、自分の家に歩き出そうとした。
だけど、不意に、私は千尋のスウェットのすそをつかんでしまって、千尋が驚いたように動きをとめる。
「……誘ってくれて、ありがとう」
今夜の千尋がいつもとは違って変だって不審に思う気持ちよりも、嬉しい気持ちのほうがもう勝ってしまっていて。
小さな声でお礼を言ったら、千尋は、曖昧な笑みを浮かべて、頷いた。
「じゃあ、おやすみ、虹」
「うん、おやすみ」
千尋のスウェットから手を離して、そっと手をあげて横にゆらせば、千尋は今度こそ背を向けて帰っていった。
月明かりが不安定でも、空が曇っていても、明日に思いを馳せればほんのりと明るくて、私は千尋が家に入るまで、じっとその場に立ちつくしていた。