大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「――あ、もしもし、千尋?」
思わず、「え、」と声を出してしまった私に、千歳くんは、し、と人差し指を唇にあてて、穏やかにわらった。
ひゅぅ、と首をなでた風は、さっきよりも冷たく感じて、心臓の音はなぜか加速しはじめる。
『――なに、千歳くん』
数秒の後、少し不機嫌そうな電話越しの千尋の声が、わたしたちの間に落とされた。
千歳くん。どうして。
なんで今、このタイミングで千尋にかけるんだろう。
それも、スピーカーオンなんて、私に聞かせるためだと言わんばかりのやり方で。
千歳くんの真意がまったくわからず、逃げ出したい気持ちに駆られる。
だけど、「千尋、今ひま?」と電話の相手に尋ねる千歳くんに、穏やかな微笑みから染み出た悪戯心を見つけてしまって、それに加えて、千歳くんが逃がさないと言うかのようにじっと私を見たまま視線をそらそうとしないから、逃げようにも逃げることはできなかった。
さっきまで心地よかったはずの夏の夜の空気は、途端に居心地の悪いものに姿をかえて、あらがうこともできず、電話口の相手が何か声を発するのを待ってしまう。