ダンデライオンの揺れる頃
そう。

そうだったの……。



『……ただいま……』


もう、声にはならなかった。

少女は、静かな感動の中で、それを知った。

恋人は、ここに居たのだ。

思い出の場所に墜ち、生命を育む大地となって、ここに居た。

自分が、何物であったかなど、思い出す必要はなかったし、本来なら、そんなことが出来る筈がなかった。

だが、恋人は、思い出した。

少女に、再び会うために、還って来たのだと。

恋人は、確かに死んでしまった。

けれども、今はここにいる。

ここで、あたたかな大地となって生きているのだ。
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