花咲く雪に君思ふ
二人を家に送り、念のために退魔の術を練り込んだ札を渡して、僕は来た道を戻る。

あくまで気休め程度の物だけど、無いよりはましだろうね。

ものの怪に見付かりにくくはなっただろうし。

一応、夜の外出は控えるよう言っておいたけど。

……と言うか、なんで僕があれこれ世話やいてやらなきゃいけないんだろうね。

お人好しは雪花一人で充分なのに。

「知らない内に、雪花に影響されてる?……まさかね」

呆れたように呟いて、でも嫌な気分じゃないことにまた呆れた。

とにかく、さっさと帰って、気の抜けた雪花の顔でも眺めようか。……そんなことを思っていた時、目の前にいる二人の影に足を止める。

こんな夜中に堂々と逢瀬とはね。

ま、人のことに興味なんかないから勝手にやってほしいって感じだけど。

なんて思っていたら、雲の隙間から顔を出した月が、小さく明かりを落とし、見覚えのある髪飾りを写し出す。

銀細工で出来た、雪の結晶の形をした髪飾り。

銀華(ぎんか)と呼ばれる、雪の中で咲く花のような形をしていることから名付けられたもの。

僕が初めて……雪花にあげた物。

「……なん……で」

いや、考えるのは取り敢えず後。

僕は二人の元へと走る。

すると、雪花の前にいた人影は、腰から何かを引き抜いた。

あれは……刀!

くそっ。雪花のやつ、何ぼうっとしてんのさ?!

自分が殺されるって分かってんの?!

懐から小太刀を取り出すと、人影へと踏み込んだ。


雪花はぼうっと目の前の男を見上げていた。

俄な月明かりから照らし出される男は、誰が見ても虜になってしまいそうな美しさがある。

『……ようやく、見付けた。不老不死の血』

ニヤリと半月のような笑みを浮かべると、男の額から鋭い角が生えた。

『お前を喰らえば、俺は永遠の時間を生きられる!!』

振り上げた刀を、雪花は光の無い瞳でただ見上げていた。

すると―。

『ガッ……ァ……』

「……あのさ、それは僕のだから。他あたってくんない?まぁ、鬼にそんなこと言っても無駄だろうけど」

鬼の腕に刺さった小太刀を引き抜くと、桃矢は札を取りだし、鬼の背中に張り付ける。

「業火招来!」

呪文を唱えると、炎の渦が鬼の体から吹き上がる。

『ガァァァァァァァ!!』

「……っ」

鬼の悲鳴と同時に、雪花の瞳に光が戻り、そのまま後ろへと倒れそうになるが、すんでのところで桃矢が抱き止め、そのまま雪花を抱えあげる。
< 22 / 29 >

この作品をシェア

pagetop