妖精の涙【完】


そして最後のお店に行くと迷わなかった、というぐらいすぐにその1着を見つけた。

でも誤魔化すために真っ先には向かわず、お店をぐるりと回ってからカモフラージュのために何着か他の服を持って試着室に入った。

今度はしっかりと鏡を見ながら着替えて、なにやってるんだろう、と両手で顔を覆った。


恥ずかしい。

本当に恥ずかしかった。


闇色のワンピース。


これを選んだら2人には気づかれるだろう。

自覚してしまったのだ。

このときに?と思った。

でも偽りじゃない。

あの人の瞳によく似た闇色。

目と鼻の先で見たあの色だった。


急に押し寄せてきた感情の波に困惑し高揚しその場にへたりこんだ。

こんなの初めてだ…


「ティエナ大丈夫?」


時間がかかりすぎていたのか、リリアナの心配したような声が外から聞こえた。


「はい!大丈夫です」


若干声が震えたが、彼女の影がカーテンから離れていくのがわかってほっとした。


隠すべきだ。

隠すべきなんだ。


ティエナは闇色ではなく紺色のワンピースを選び、リリアナに見せた。


「これにします」

「赤と茶色には合うわね」

「はい」


作り笑いになっていなかっただろうか。

ギーヴはまた外にいるからきっと気づかれていない。


誰にも気づかれてはいけない。

身分が違い過ぎる…

それに、彼の境遇を考えれば恐らく…自分は近くにいてはいけない存在だ。


なんでもっと早くに気づかなかったんだろう。

迷惑だ。

邪魔だ。


ぎゅっと目を瞑った。


こんな気持ち。

捨てたい…!





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