冷たい指切り  ~窓越しの思い~
「和くん、笑って笑って!!」

何が楽しいのか、同じくチャイナドレスに身を包んだ樹が

多くの観客に手を振って笑顔を振り撒いている。

アイツの頭の中を、見てみたいもんだ。

「和くん、あそこあそこ。
本部横のテントにちぃちゃんがいるよ。
ちぃちゃ~ん!!」

おいおい!!

教師が個人を呼んだら問題だぞ!

保護者に囲まれたこのグランドで、伊藤さんを堂々と呼べる樹が

なんだか羨ましかった。

さっきの写メ………送ってもらったら…………ダメだよなぁ。

危ない危ない!

樹の影響で危うく職を無くすところだった。

愛想笑いに顔の筋肉が、強ばり始めた頃………

やっと退場が許された。

あぁ~疲れたぁ~

控え室となった家庭科準備室に入ると

先に帰っていた樹が、2ーAの望月遥さんにメイクを落としてもらっていた。

「お疲れ!」

「先生、お疲れさま。」

望月さんと樹の声に続いて出てきたのは、伊藤さん。

「先生、お疲れさまです。
冷たい物は、メイクを落としてから持って来ますね。」

気遣い上手な彼女に、数分前までの疲れを癒される。

「先生、メイクを落とすからまた目を瞑って下さいね。」

女の子って……本当に大変だよな。

朝からメイクという美術をして

夜はあんなに頑張ったメイクを、キレイに落としてからじゃないと寝れないって……

男で良かったって思うよ。

俺があれこれと思いを馳せてる間に

メイクは取り終わり、いつもの顔に戻る。

「ご苦労様でした。
後は洗顔してきて下さいね。」

タオルを首にかけて廊下に出ると、樹に呼び止められた。

「和くん、ちぃちゃん……変わったね。
良い顔、するようになったよ。」

樹に言われて振り向くと、キョトンとこちらを見ていた。

確かに!

年相応の表情をしている。

誰かに話すことで、少しでも楽になってくれたら嬉しいな。
< 27 / 81 >

この作品をシェア

pagetop