冷たい指切り  ~窓越しの思い~
「降りますか?」

彼女と来る2度目の海は…………




「先生~、こっちこっち!!」

相変わらず、はしゃぎまくる彼女は……この前と同じで幼く見える。

多分、これが本来の彼女の姿なんだろうな。

前回と同じで年齢の差を感じながら、ゆっくりとした足取りで

彼女のもとに行く。

夏だというのに………海は閑散としている。

遊泳禁止の場所ということもあるけれど……

最近の子は、ベタつく海よりプールを好むらしい。

プールにはないこの潮風と香り………波の音が良いと思うんだけどなぁ。

「和~!」

…………………??

女性の声だけど………伊藤さんはそんな呼び方はしない。

前方ではしゃぐ彼女とは違い、後ろから聞こえる声にに振り向くと………

ゲッ!!!

樹に次いで会いたくない人物がいた。

彼女の名前は、佐山 香里。

5歳年上のご近所さん。

夜……家にいない母親に代わって、何かと世話をやいてくれた人だ。

母親代わりとは言わないが………ちょくちょく気にかけてくれた。

マズイ!!

彼女を直ぐに呼び寄せ

「伊藤さん!今から貴方は、彼女です。
二十歳を超えてます!!いいですね!!覚えましたか?
『はい』と頷いて、笑顔だけ向けて下さい!!
決して関わってはダメですよ。
では………お願いします。」

多くを語らずとも、賢い彼女には伝わったらしく

ニッコリ笑って、小さくOKサインを出してくれた。

彼女が今、声を出さない時点で………

『大丈夫!!乗りきれる。』と確信した。
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