冷たい指切り  ~窓越しの思い~
それからの3週間は、中間考察と文化祭の準備でお忙しだった。

「先生、今日は少し遅くまで出来るよう申請を出していたのですが
通りましたか?」

「メニューの試作品を味見して下さい。」

「お店に流す音楽は…………」

「衣装は、着物の人と袴の人に別れて着付けの練習をして下さい。」

俺も忙しいが、彼女の忙しさは半端ないものだった。

おまけに、当日のアナウンスも担当しているらしく

部活にも参加していた。

もちろん成績を落とす事はなく、今回は学年3位だった。

あれから1ヶ月以上たつが、全くと言っていいほど口を利かない樹。

他の先生達も、さすがに気づいたらしく………

俺達の様子をチラチラ見ている。

居心地の悪い俺は、いつものように準備室に逃げ帰っていたら

「ちょっといい?」と

不機嫌を隠さない声で、戸口から話しかけてきた。

「あぁ~」

こちらも意地になっているから、素っ気ない態度をとる。

ソファーにドカリと腰を下ろした樹は

「ちぃちゃん…………死ぬよ?」と言ってきた。

「あぁ~。」

「分かってて………ほっとくの??」

それくらい俺だって、感じている。

失恋をすると、やけ食いややけ酒とやけを起こして………ムチャをするものだ。

確かに、伊藤さんもムチャをしている…………

だけど…………

「いくら担任でも…………
羽目を外したなら………注意も出来る。
でも、頑張っている生徒に……頑張るなとは言えないだろう。」

「そりゃそうだけど………。
もとはといえば、和君があんな言い方をするから……………。」

「お前のように、生徒と付き合うなら………………優しく言う。
だけど……付き合う気がないのなら……
期待など持たせず
嫌な教師に間違った恋をしたと気づかせて………
同じ年頃の彼氏を見つけられるように促すことの……何が悪い?
今ここで、優しくしたら………
彼女はいつまでも………前に進めないじゃないか。」

俺の話に………

「和君……メチャクチャちぃちゃんのこと……好きじゃん!!
だったらどうして………突き放すの??
二人とも好きなら、この間の距離でいればいいんじゃない??
別に、俺とはぁちゃんのように付き合えとは言わないよ。
俺達は真剣だけど………一般的には……受け入れられないし。
それでも………二人で話し合って………
卒業まで………このペースで、ゆっくり付き合うことにした。
守ろうと、大人の俺達がきちんとしてたら………
突き放さなくても…………距離を保って一緒にいることは出来るよ。
とにかく、今のままだったら……ちぃちゃんは確実に倒れるよ。
担任としてでも………支えてあげないと!」

言いたいことを言うと、来たときのようにサッサと出て行った。
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