愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
二階のベランダに干してあった洗濯物は、先ほど取り込んで片付けた。

掃除は午前中に終わらせているし、夕食の下拵えをするには早すぎる。

さて、なにをしよう……。


「あれをやろうかな」と独り言を呟いた私は、自分の部屋からスケッチブックと水彩絵の具を持ってきた。

そしてガラス戸を開け放してある縁側に腰掛けて、スケッチブックの真っさらなページを笑顔で開いた。


私の趣味は水彩画である。

それは誰かに見せたり、コンテストに応募しようという目的ではなく、ただ描くという行為が好きなのだ。

画題の多くは、この裏庭の草花であり、まずは鉛筆で紫陽花の輪郭を描き始める。


下宿屋の名の通り、庭にはたくさんの紫陽花を植えている。

玄関横のふた株はもう花の見頃を終えてしまったけれど、日の差し込みにくい南側の小さな裏庭は、七月半ばの今でも綺麗に花が咲いている。

赤紫、紫、青、白と、花の色は様々だ。

紫陽花の花の色は土の酸性度によって変わるので、祖母が毎年春先に石灰や焼きミョウバンを撒いて、花の色を調整している。


紫陽花はもう何百枚と描いてきたため、迷いなく絵筆を走らせて、ほんの十分ほどで水彩画一枚が完成した。

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