愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
そろそろ、帰ってくる時間だよね……。

壁掛け時計を見て、卓上コンロに火をつけて土鍋を温め直す。

すると、玄関の方で引き戸が開けられた音がして、私は喜び勇んで廊下に走り出た。

廊下を歩いてきた桐島さんに、「お帰りなさい」と笑顔を向けると、「ただいま」と優しい瞳が弧を描く。


彼の帰宅を喜んだ後は、濃紺のスーツの肩や髪が少し濡れているのに気づく。

耳を澄ましても雨音は聞こえないが、どうやら天気が崩れているようだ。


「雨ですか?」と問うと、彼は頷く。

「駅からここまで歩く間に降ってきたんだ。着替えてくるよ」と言った彼だが、「その前にお土産」と私に駅前の菓子屋の名前が書かれた小さな紙箱を手渡した。

それから階段を上っていく。


その背にお礼の言葉をかけた私は、この場で箱の口を開けて中を覗いた。

入っていたのは、透明な丸いカップのチョコレートムースのケーキがひとつ。


「あ、水無月堂さんの新作かな……」


水無月堂は老舗の菓子屋で、和菓子も洋菓子も置いている。

祖母はそこの豆大福が好きだったので、私は時々、買いに訪れていた。

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