愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
それから、着流しに着替えて下りてきた桐島さんと、座卓に向かい合って鍋をつつく。

味の染みた大根を美味しそうに頬張る彼を、嬉しく思いながら、私もがんもどきを口にする。

土鍋いっぱいに煮込んだおでんは、余ってもおかしくない量なのに、桐島さんの箸は止まらず、やがて空になった。

片手を後ろについて胃のあたりをさすり、「満腹です。美味しかった……」と吐息交じりに感想を述べた彼に、私はクスクスと笑う。


「温かい鍋ものが美味しい季節になりましたね」

「そうだね。でも、真夏にこのおでんが出てきても、美味しく食べたと思う。有紀ちゃんの手料理には真心が込められている。私のことを想って作ってくれたのが伝わってきて、とても幸せな気持ちになれるんです」


ウインク付きの褒め言葉に、私の胸は高鳴り、頬は火照りだす。

おばあちゃんに比べたら、まだまだ未熟なのに、そんなことを言われたら嬉しくて、照れてしまうよ……。


桐島さんはいつも私を喜ばせるのが上手で、対して私は、気の利いた返しができずに目を泳がせてしまう、褒められ下手であった。


熱い顔を見られているのが恥ずかしく、食器を片付け始めることでごまかそうとしたら、「有紀ちゃん、就職活動は順調?」と話題を変えて問いかけられた。
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