愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
申し訳ないけれど、今日は親子丼と味噌汁と漬物でいいだろうかと、その旨を返信したら、【親子丼は好物です】というありがたい言葉をもらった。


「よかった。桐島さんは本当に優しい人だよね……」


独り言を呟いたら、後ろでカタンとなにかを倒したような小さな物音がした。

振り向くも、机や椅子が静かに並んでいるだけで誰もいない。

いつの間にか、この部署で残業しているのは、私だけになっていた。


首を傾げた私は、それっきり物音の発生源を気にすることなく前を向く。

紫陽花荘はあちこちが傷んでいるので、皆が寝静まった夜中にギシギシと板の軋む音がしたり、車が近くを通れば揺れることもある。

それに慣れているため、正体不明の物音を怖いと思うことがなかった。


さあ、続きを……と思ったが、その前にお手洗いに行きたくなって席を立つ。

お手洗いはこのフロアの奥、給湯室の向かいにある。

そこまで行って戻ってくるのに、五分ほどかかっただろうか。

一台だけディスプレイ画面が明るい共有デスクに腰を下ろしたら……私は「えっ!?」と驚きの声をあげた。

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