愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
「私は自分の力で、採用試験に受かったんですか?」と問えば、彼は深く頷いた。


「モルディジャパンは、君の力が必要だと判断したから採用したんだよ。胸を張っていい」

「は、はい!」


採用に関しては、ズルをした気分で後ろめたい思いもあったため、桐島さんの言葉に自信と勇気が湧いてくる思いでいた。

涙も乾き、笑顔が戻った私を見て、彼は私の頬から手を離す。

そして、「さあ、仕事を終わらせてしまおう」と私をパソコン前の椅子に座らせた。


桐島さんは、さっきまで私が使っていた隣の椅子に腰を下ろし、長い足を組む。


「急がなくていい。有紀ちゃんの仕事が終わるまでのんびりと待っています」


灰青色の瞳に見守られて、私は安心して色付け作業を始める。

急がなくていいと言われても、気が逸る。

それは、私に与えられた初めての大きな仕事を早く完成させたいという思いの他に、もうひとつ。

紫陽花荘に帰って親子丼を作り、桐島さんのお腹を早く満たしたい……という思いがあるためであった。


犯人についての不安や恐れはあっても、不思議と今は心が前に向いている。

桐島さんがそばにいてくれるなら、私はいつもより少し、強くなれる気がしていた。

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