愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
けれども、その恐怖よりも自分を責める感情の方が強く、胸が締め付けられるような痛みを覚えていた。


「皆さんは厳しい入社試験をパスしてモルディジャパンに入ったのに、私は桐島さんの声掛かりで簡単に正社員になれたから、疎まれていたんでしょうか……」


情けない顔を向ければ、温かくて大きな彼の手に頬を包まれた。

私の鼓動が跳ねて、触れられている場所がたちまち熱を帯びる。

真顔の桐島さんは、驚いている私の目の奥を覗き込むようにしながら、諭すように言う。


「私は面接担当者にこう言ったんだ。『アイスクリームのパッケージングチームに新しい風を吹き込みたい。柔軟な感性と、素直で優しい目で物事を捉えることのできる人材が欲しい』それだけです。採用試験前に、有紀ちゃんの名前を出したことはない」

「え……?」


目を瞬かせた私は、拳三つ分ほどの距離にある彼の瞳を見つめて考える。

てっきり桐島さんが口添えをしてくれたから合格したのだと思っていたのに、違うようだ。

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