常盤の娘
★☆★
何か安心するリズムで身体を揺すられている。甘いまどろみの中、純花は薄く瞼を持ち上げた。近くに東条の横顔が見える。
「起きたか」
純花は再度夢に意識を引きずり込まれそうになりながらこくりとひとつ頷く。と、東条は視線だけで振り返った。
「なら、歩けるか」


純花の起動途中の脳みそは、ポンコツながら東条の言葉に多少の疑問を覚え、状況把握を促した。

夜のひんやりとした空気を直接肌に感じる。から、車の類に乗っているわけでもないようだ。が、それでいて足も動かさないのに景色はゆるゆると背後へ流れていく。おまけに視点はいつもより高いし、東条の顔は至近距離にあるし、これは……

≪東条におぶられている≫

純花はそんなしごく単純明快な解に辿り着くと、小さく悲鳴を上げた。
< 50 / 62 >

この作品をシェア

pagetop