極上恋慕~エリート専務はケダモノでした
「いつも通りです」
本当は昨日からドキドキしていたなんて言えない。
今朝は入念にメイクをしたことも、知られてはいけない。
想いを隠すようにバッグを持ち直すと、プリントアウトした資料の紙で切ってしまった絆創膏の指先に、彼の視線が落とされた。
「怪我したの? 傷、深くない?」
「平気ですよ、紙で切っただけです」
「でも、大事にして」
働いていれば珍しくはない切り傷なのに、彼は心配してくれた。
色気のない絆創膏の左薬指をそっと撫でた環は、そのまま手を繋いで、人が溢れるホームを歩きだす。
「俺についてきてね」
「……はい」
しっかりと手を繋がれたままなので離れようもないのだが、時折彼は後ろを歩く万佑を気にかけている。
目が合うたびにドキッと音を立てる胸の奥は、彼といるだけで満たされていくよう。
それに、帰宅ラッシュのホームでさえ、途端に鮮やかに色がついたように見えるのだから不思議だ。
(永縞さんといると、なんだかすごく幸せな気分になるなぁ)
ふたりは周りと比べて短い行列を見つけ、並んで電車の到着を待った。