月夜に還す
 街灯と街灯の間の薄暗い場所で、どれくらいの時間留まっていたのだろか。

 幸香を腕の中に収めたまま、しばらく無言だった滉太が、ポツリと呟いた。

 「そうだな…針千本の代わりを飲んでもらうかな。」

 「え?」

 意表を突かれた幸香は、パッと顔を上げた。

 その瞬間、やわらかな感触が幸香の唇を塞いだ。

 (な、なにが…)

 しっとりと合わさった唇は、ほんの数秒で離された。

 それが何だったのかを幸香が理解したのは、離れていった滉太の顔を見上げた時だった。

 彼の顔を見上げて、口をポカンと開けたまま固まっている幸香の頬に、滉太がそっと大きな手を添えた。

 「いや、違ったな…。」

 彼のその言葉に、ハッと我に返る。

 「な、何が…?」

 本当に聞きたいのはそんなことじゃないはずなのに、幸香の口からは滉太の台詞への疑問しか出ない。

 「全然変わらないっていったけど、違う。ゆきちゃんは…、幸香は大人になって、綺麗になったよ。」

 滉太はそう言った後、幸香の頬に当てた手をそっと動かして、彼女の頬を一撫でする。
 そして、眩しいものを見るかのように、目をすがめた。
< 14 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop