月夜に還す
 幼いながらも気持ちを通わせあった二人は、それまで以上に仲良く過ごした。
 小犬みたいにコロコロと明るく朗らかな幸香と、年の割に落ち着いた雰囲気の滉太は、大きな喧嘩をすることもなく、平穏な日々を過ごす。
 ただ、二人の気持ちの距離が、それまでよりもグッと近くなっただけで、周りからは見えないそれに気付かれはしなかった。

 
 拙い二人の約束からちょうど一年後。

 蝉がうるさいくらいの大合唱を奏でる暑いある日、滉太は突然いなくなった。
 何の前触れもなく、前日までいつものように一緒にいたのに、忽然と姿を消してしまった滉太に、幸香はただただ泣いて泣いて泣きまくった。

 (なんで!?どうしてなにも言わずにいなくなったの?)

 (わたしのこと嫌いになっちゃったの?)

 (だまっていなくなるなんて、ひどいよ、こうくん。)

 (こうくんが何か言おうとしたのに、私が気付かなかっただけなの?)

 次々と湧く疑問。非難と後悔が小さな胸に交互に押し寄せて、その波の中で溺れそうになりながら、でもこどもの幸香には彼の居場所を突き止める術が何一つ分からない。

 両親に聞いても、何も知らないようで、夏休みが終わるころには、幸香の涙も枯れ果てて、ただ、胸の中にぽっかりと穴が空いたような気持ちだけが残った。

 年数を経て少しずつその悲しみを薄めた幸香は、滉太との日々を、昔見た映画のワンシーンみたいに切り取って、心の中の綺麗な箱にそっと詰め、胸の奥底に仕舞い込んだ。

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