はつ恋の君をさがしてる
「どうしたんだ?ずいぶん疲れた顔してるな?」

マンションに帰ってリビングのドアを開けると高嶺さんがソファーからおかえり~と声をかけてくれた。
疲労困憊ですっかり高嶺さんの存在を忘れていた私はすぐに反応できなくて、ぽかーんとしてからあわててただいまを返した。
そんな私に高嶺さんは訝しげな視線を向けてくる。
そして冒頭のセリフだ……
これにどう返そうか躊躇したが、仕事が忙しくてちょっと疲れたと話してすぐにキッチンに逃げ込んだ。

夕食は昨夜漬け込んでおいたタンドリーチキンを焼き、グリーンサラダと簡単に作ったわかめスープを用意した。
高嶺さんは疲れてるなら無理しなくていいと言ってくれたけど、私がするべきことはきちんとしたかった。

二人で夕食を食べていると、お弁当の話になった。
「旨かったよ。ありがとな。でも俺のことまでは良いからな?夕食も必ず食べれる訳じゃないし、無理すんなよ?」
「いいんです、お弁当は私がしたかっただけだし、夕食だって一人分も二人分も作る手間は変わりません。食べれそうな日だけ事前に教えてくれたら食材は無駄にしませんから。」
「そうか。わかった、じゃあ後で勤務表渡すから……」
「はい。」

そのあとは当たり障りの無い会話だった。
通勤が近くなった話や、転居届けを貰ったのに書き忘れた話等を私が適当に話すのを高嶺さんは時々相づちを打ちながら聞いてくれた。

「で?転居届けの世帯主には俺の名前書くんだよな?続柄は?なんて説明する気だ?」

高嶺さんはまたイタズラを思い付いたワルガキみたいに嬉しそうに意地悪なセリフを吐く。
ただからかってるだけなのは分かっているのに自分の頬が赤くなっていくのを感じる。

どうしよう……そんなこと考えてなかった。

「なんだよ?悩むこと無いだろう?普通に婚約者だって言えよ!それが一番無難だろ?」

「う…うん。でも……恥ずかし。絶対噂になりそうだし…」
「なればいい。嘘じゃないんだからな!」
そう言って笑う高嶺さんに私は笑えなかった。
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