はつ恋の君をさがしてる
動けなかった……
まばたきひとつできないくらいに怖くて、ただ黙って突っ立ってるしかできなかった。

だから不意に振り向いた高嶺さんが走って戻ってきてくれてホッとした。
抱き寄せられてやっと肺に空気が入ってきたみたいに呼吸が楽になったことに気が付いて驚いた。

高嶺さんは何も聞かなかった。
だから私も何も言わなかった。
二人で手を繋いで歩いた。

高嶺さんの手がちょっと冷たくて気持ち良かった。

私たちはその後すぐに帰宅することにした。
車に乗り込んで祖父母と暮らした家を見てみた。
田舎の古くさい古民家
だけど私の大切な場所。

いつも帰るときは無性に泣きたくなるくらい寂しくなる。

なのに……

なんだか不思議だけど、今日は高嶺さんが居るからかな?

「さよなら。」

私の口から自然とそんな言葉がポツリと出てきて、すとんと気持ちが落ち着いた。

車はゆっくり動きだした。

動けなかった私の気持ちも一緒に動きだした気がした。

明日は弁護士の平原さんに電話しよう。
祖父母の家を貸し出す相談をしたい。

うん。大丈夫。
私が今帰る場所は高嶺さんがくれたから。
もう大丈夫。
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