初恋の君と、最後の恋を。
満員電車。
ぎゅうぎゅうの車内では黒瀬先輩との距離が自然と近くなる。
だからなるべく先輩に近付きすぎないように踏ん張ります。
さすがに好きでもない女にこれ以上近くにいられたら気分が悪くなるはずだし。
いくら温厚な先輩と言えど、私もそこまで図々しくはない。
つり革は全て埋まっていて掴むところがない今日みたいな日は特に大変だ。
揺れる車内で上手くバランスを保つ。
大丈夫、後5駅もすれば学校に着くんだから。
「ご、ごめんなさい!」
うそ…。
駅で停止しようとブレーキを踏んだ車内でふらつき、あろうことか先輩の革靴を踏んでしまった。
綺麗に磨かれた革靴に白っぽい跡が残る。
なにやってるのよ、私…
「掴まって」
「それが…」
余ってないんです、と小さな声で付け足す。
痴漢対策なのか1本のつり革を両手で掴むサラリーマンも疲れ切った顔をしていた。
「俺の腕に掴まっていいよ」
え?
「どうぞ」と言って右腕を伸ばす。
待って。
優しすぎるでしょ。
仮にもあなたに好意を寄せている女にこんなにカッコイイことをされたら、脈アリなのかな?って思うよ。
勘違いするよ。
「ありがとうございます」
邪念を振り払い、
そっと手を伸ばす。
華奢に見えた黒瀬先輩の腕は想像以上に太かった。