今夜、シンデレラを奪いに 番外編
「俺は淋しいです。透子に会えない時間が疎ましい」


透子が驚いて目を見開いている。気がつけば順序も何もなく言葉が口をついた。


「会えないのは俺の都合で、俺の責任です。現状が恋人として不甲斐ないことも分かっています。

ただそれでも、俺が透子のそばにいないものだと見限らないで下さい」


「……っ、違うってば!

ああもうっ、急に何て顔してるのよー!」


彼女は動揺した時の常として髪に手を伸ばした。結った髪が崩れそうになり、「しまった」というように手を引く。行き場を無くした透子の指は、迷った後で控えめに俺の袖を掴んだ。



「勿論たくさん会えたら嬉しいし、淋しくないって言ったら嘘になるけど。

でも大丈夫だよ。

今は私が淋しいって思うのと同じように、……夏雪が淋しいって思ってくれるから辛くないんだ」


驚いた。


一緒にいられないことをお互いに淋しいと思っているのなら、辛くはない。矛盾するようでいて不自然と腑に落ちる。


透子の言葉は、俺が迷い込んだ袋小路の先を照らした。彼女はいつも易々と俺を引き上げてみせる。以前に彼女のそばから身を隠そうと決めた時もそうだった。


彼女は俺にとって、闇を払う灯である。


「……はい」


感謝やら愛やら伝えたい事が多過ぎて、何故かこういう時には無表情になってしまう。おまけにたいした言葉も出てこない。


結局、俺は単に彼女の口から「淋しい」と聞きたかったのだ。呆れるほど幼稚で身勝手で、自覚すると情けなくて顔が熱くなる。


「あれ、何か顔赤くない?熱あるの?」


「ありません」


「いや、普段の顔色と違うって!」


「問題ないです。その指摘は却下します」


額に伸ばそうとする彼女の手を避ける。触れば熱いと言うに決まっているからだ。透子の手では俺の検温はできないのだと、彼女は知る由もない。

Fin.
< 25 / 25 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:86

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

キャラクター設定(限定公開)

総文字数/6,347

その他3ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
作者の備忘録をひっそり公開。 公開済みの内容はネタバレしますので、お読みになるなら本編&番外編読後に。
幼なじみの甘い牙に差し押さえられました

総文字数/127,003

恋愛(オフィスラブ)146ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
勤め先のお店の危機に、幼馴染みの涼介が突然やってきた。 「……どうして力を貸してくれるの?」 「約束したろ、お前の居場所くらい俺が何とかしてやるって」 10年以上前の約束とも言えない約束。ずっと他人だった涼介が守る必要なんかないのに。 「環の居場所は俺があげる。やっと見つけたんだ。いいから、俺に甘えてろ」 ■河原 環(かわはら たまき) 女性下着専門店の販売員。自慢じゃないけど女の子になら数限りなくモテてきた。恋愛は封印中。 ■水瀬 涼介(みなせ りょうすけ) Evergreen Oak 商社 ブランドマーケティング部門 マネージャ 友達だった中学の頃とは別人みたいで、少しだけ近より難くなった。
ロマンスフルネス  溺愛される覚悟はありますか?

総文字数/64,228

恋愛(ラブコメ)62ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
矢野透子 (やの とうこ) 29歳 営業職 「彼の負担になりたくないし、重い女になるのは嫌なの」 × 真嶋夏雪(まじま なつゆき) 26歳 副社長 「こんなにも制御できない感情が自分にあったとは、今まで知りませんでした」 恋人になったばかりの二人にとって、会える時間があまりに短くせつない日々。恋人に気を使って素直になれない透子と、そんな彼女に焦らされていく夏雪。 さらに彼の出生の秘密が暴露される事件が発生して…? 恋に不慣れで両片想い状態の二人の、暴走系・焦れったラブストーリー。 ※『今夜、シンデレラを奪いに』に続くストーリーですが、この物語単独でもお読み頂ける内容になっています。 *レビュー御礼* 匿名奇暴さま とても素敵なレビューを頂きありがとうございます。物語全体の世界を楽しんで頂けて、作者冥利につきます。 また、この物語の番外編を公開しましたので、匿名奇暴さまに楽しんで頂けたらとても嬉しいです。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop