伝説に散った龍Ⅰ













「ーー、最っ高だよ!最高!」





一通り歌い終えて、伊織に目を合わせれば。



心做しか裏返ったようにも聞こえる声で、伊織は私の肩を激しく揺らす。





「嬉じいよおおおおおお」



「ちょ、泣かないで」



「芹那ちゃんのせいだよおおおおおお」



「あはは、ブッサイク」





その真っ直ぐな涙と



真っ直ぐな笑顔。



小さな仕草も一つ一つが
私の心に、素直な色で染み渡る。





「……私ね」






今なら言えると思った。



伝えたいことがあった。





「ふふふ、なに?」





伊織が笑う。



太陽みたいな笑顔で。






















「…色々、言いたいことあったんだよ」



「…うん?」



「彼氏が現役ヤンキー?そこらじゃ有名な?この野郎ちゃんと考えてんのか、って」



「…怖い」



「…でも。今朝の伊織見てたらそんなこと思えなくなった」





今朝。



『転校してくるんだ』と無邪気に笑った
伊織の幸せを、私が崩してはいけないと思った。





「本当に、色々言いたかったはずなんだけど」



「…うん」



「結局。伊織が恋人として選んだのは近藤で、私はあくまで親友で。



親友には限界がある。言い換えれば、恋人はその壁を越えられる」



「…芹那ちゃんって女の子が好きなの?」



「…ノーマルよ」





先程まで、靄がかかっていた頭の隅の方。



晴らしてくれるのは
いつだって伊織の存在だった。





「まあ。伊織が幸せならそれでいいかなと」



「えへへ」



「今は思います」






…女子とは。



なんとも気恥ずかしい生き物。





「芹那ちゃん」



「うん?」



「爽は男子No.1、女子のNo.1はもちろん芹那ちゃんだからね」



「…うん?」



「恋は一瞬、友は一生!」





…女子とは。



なんとも幸福な生き物だ。



































ーー昼休みも中盤に差し掛かり。



私たちは完全に忘れていた。



あの、『女』の存在を。

































「ーーこんにちは、芹那ちゃん」





北見咲良の存在を。





「…どこから湧いて出た」





すっかり、忘れていた。



伊織はこいつに呼び出されてたんだった。





「話があるって言ったでしょう?」



「…ごめんね、忘れてた」



「何その顔、近藤くんだとでも思った?」



「…」



「約束くらい守ってよ、伊織ちゃん」





ーー守れるでしょう?それくらい



北見は、バカにしたような嘲笑を私たちに向かって吐き出す。



無性に腹が立った。



その化粧の濃い顔を。



殴りたい衝動に駆られた。








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