伝説に散った龍Ⅰ





「もう昼休みだよ」



「…」



「てことで円堂さん。借りるね?」



「は?」



「だって。約束したし。うんって言ったし、その子」



「私が頷くわけないでしょ」



「ええ」



「あんた自分の立場わかってんの?」



「分かってる分かってる。ほら、伊織ちゃん行くよ」



「…頭沸いてんじゃないの」





伊織、教室戻るよ。



そう言って、帰路に立ち塞がる咲良を押し退ける手に力を込める。



しかし



いつまで経っても、私に『うん』という返事は届かなかった。





「ちょ、伊織あんた何して」
























私の制止に無視を決め込む伊織は



自らその足を咲良へと向ける。



こうなることが、完全に予測できていなかったわけではないけれど。



まあ止めればいいやと楽観視していた私は



救いようのない馬鹿だった。























「芹那ちゃん。お留守番をお願いしたいです」



「…伊織、」



「さっき連絡あったから、もうすぐ皆来ると思う」



「待って伊織、」



「自己紹介して待っててよ。仲良くなって欲しいの」



「…馬鹿」



「すぐ戻るから」





目を逸らすことが出来なかった。



その真剣な瞳から。



どうしても、頷くしかなかった。

























「…なるべく早く戻って」



「うん」



「じゃなきゃ殴るから」



「…怖いから早く戻るよ」



「…ダメならダメって言うのよ」



「うん」



「……わかったよ」





だから私も返す。



真剣な言葉を。









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